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東京地方裁判所 昭和35年(ワ)1755号 判決 1960年5月24日

主文

(1)から(23)までの被告等は原告に対して各自金三二、一八四円及びこれに対する昭和三五年三月一二日((1)の被告松田元一については同月一四日、(6)の被告松田清については同月二八日、(21)の被告松井佐一郎については同月一三日)からそれぞれ支払済まで年五分の割合による金銭を支払うこと。

被告寿食品工業株式会社に対する請求を棄却する。

訴訟費用は被告寿食品工業株式会社について生じた分は原告の負担とし、その余の分は(1)から(23)までの被告等の負担とする。

この判決は第一項に限り仮りに執行できる。

事実

≪省略≫

理由

(被告寿食品工業株式会社に対する請求について)

原告は、被告会社は原告と常松苺組合との間に昭和三四年度産苺ジヤム用原料苺について一手販売契約が結ばれていることを知りながら昭和三四年五月から六月までの間に右組合から苺ジャム用原料苺をヘタ取り換算一三二九貫一二〇匁以上を買取り、原告が一手販売契約にもとづき右組合から同量の苺を買取る権利を侵害したものであるから、被告会社は原告がこれによつて被つた損害を賠償する義務があると主張する。しかし、現在の取引は自由競争を建前としているのであるから、ただ単に組合が原告と一手販売契約を結んでいることを知つて組合から一手販売契約の目的たる苺を買取つたというだけでは、法を超えた道義の立場からする非難は別として、他に特別の事情のない限り法律上これを違法な取引というわけにはゆかない。このことは、いわゆる不動産の二重売買の場合にすでに売買がなされていることを知つてその目的物を買受けた第二の買主も、信義則に違反する等の特別の事情のない限り、その対抗要件を具備することによつて完全に所有権を取得するものとされていることからも容易に首肯できるところであると思われる。原告は当裁判所の釈明に対して被告会社は一手販売契約の存在を知つてこれを侵害したもので、他に特別の違法事由はないというのであるから、被告会社の本件の苺の買取行為は違法性を欠き、不法行為にならないものといわなければならない。したがつて、原告の請求は、爾余の判断をするまでもなく、それ自体理由のないものとしてこれを棄却する外はない。

((1)から(23)までの被告等に対する請求について)

被告等は原告が請求原因として主張する事実を自白したものとみなす外なく、これによれば原告の請求はいずれもその理由がある。

右のとおりであるから、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石井良三)

<以下省略>

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